「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」映画レビュー:久々に「アメリカ」を満喫したいあなたに
「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」映画レビュー:久々に「アメリカ」を満喫したいあなたに
アポロ11号月面着陸の陰謀論をテーマにした映画が劇場公開中
「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」(私を月に連れて行って)は1969年のアメリカを舞台にアポロ計画の裏側を描いており NASAのPRマーケティング担当に抜擢されたケリーがアポロ11号の月面着陸を全世界にアピールするために大奮闘する物語 観客の評判は上々で シナリオの完成度の高さとリアルで迫力のある映像などが評価されています レビューサイトでは3.9/5の高評価を獲得しており早くも2025年アカデミー賞のオスカー候補に名乗りを上げています…
👉ストーリー
時は1969年ニクソン政権の冷戦下 ケネディ大統領が立ち上げた「アポロ計画」は打上げの失敗続きで8年経ってもソ連との宇宙開発競争において結果が出せていない…国民の関心は薄れ TVメディアでもベトナム戦争のニュース映像の陰にすっかり隠れている NASAでは回収の目途の立たない予算が膨らむ一方でロケット以外の設備はお粗末な状態 職員の士気は発射の時が迫っているにもかかわらず低く暗いムードが流れ…そこで政府関係者のモーは凄腕PRマーケッターのケリーを雇い入れる 彼女は宇宙飛行士たちを「ビートルズ以上に有名にする」とやる気満々…しかし正直で真直ぐな性格の発射責任者コールは彼女の過激で詐欺まがいのPR作戦に反発しケリーとコールの対立は深まるばかり…そんな矢先ケリーはモーからスタジオ撮影での「偽の月面着陸映像」の生中継という極秘任務を命ぜられる アポロ11号の打ち上げは無事成功し いよいよ月面着陸におよび世界はTVのライブ映像に釘付けになるが…人々が見た映像は果たして「リアル」か「フェイク」か?
制作 Apple Original Films/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(Apple TV+でも配信)
スタッフ 監督:グレッグ・バーランティ 製作:キーナン・フリン、サラ・シェクター、スカーレット・ヨハンソン、ジョナサン・リア 製作総指揮:ロバート・J・ドーマン 脚本:ローズ・ギルロイ 音楽:ダニエル・ペンバートン
キャスト ケリー:スカーレット・ヨハンソン コール:チャニング・テイタム モー:ウッディ・ハレルソン ランス・ヴェスパータイン:ジム・ラッシュ ルビー:アンナ・ガルシア
久々に「アメリカ的」なテイストを満喫できるオジサンも大満足の映画
👉ユーモアと風刺 アメリカ特有のユーモアと風刺が満載…アポロ11号の月面着陸映像が捏造されたという陰謀論をテーマにしながらも軽快でコミカルなタッチで描かれています スカーレット・ヨハンソン演じるPRマーケッターとチャニング・テイタム演じる真面目なNASA発射責任者の対立と協力が笑いを誘う一方 政府やメディアの信頼性やアメリカの消費文化について皮肉を込めた内容となっています
👉制作費をかけた大掛かりでリアルな映像の数々 NASA全面協力の上 予算をかけて制作したと思われる迫力のある映像はまさに「アメリカ的」と言えるでしょう
👉劇中のムードを盛り立てる多くの要素 バックで流れる音楽(ビー・ジーズ他) 登場するアメリカ製プロダクト(車・飛行機・時計等)キャストのファッション 街並み(50's風ダイナー等)が古き良きアメリカを蘇らせる
月面着陸を巡る陰謀論
👉映像や写真の不自然さ 月面の写真や映像に星が写っていないことが指摘されています これはカメラの露出設定が月面の明るさに合わせて調整されていたためです 真空状態の月面でアメリカ国旗がはためいているように見えることが疑問視されています 実際には旗が立てられた際の動きがそのまま残ったためです
👉技術的な限界 1960年代の技術では有人月面着陸は不可能だという主張があります しかしNASAは当時の技術を駆使して成功を収めました 例えば アポロ計画のコンピュータは非常に限られた性能でしたがミッションを遂行するために最適化されていました
👉スタジオ撮影説 陰謀論者は月面着陸の映像がスタジオで撮影されたと主張しています しかし後の月探査ミッションや他国の探査機がアポロの着陸地点を確認しており これが事実であることが証明されています また月面着陸映像はスタンリー・キューブリックによって撮影されたという陰謀論は長年にわたって語られてきました これはキューブリック監督が1968年に公開した映画「2001年宇宙の旅」のリアルな宇宙描写に基づいています 陰謀論者はキューブリックがこの技術を使って月面着陸の映像を捏造したと主張していますが娘ヴィヴィアン・キューブリック他 家族はこれを強く否定しています
(番外エピソード) 👉スタジオ撮影説のパロディ 陰謀論の中でも特に有名なのが「月面着陸はハリウッドのスタジオで撮影された」という説ですが この説をパロディにした映画やテレビ番組がいくつか存在します: 「カプリコン・1」「ムーン・ウォーカーズ」
「カプリコン・1」 この映画は1977年に公開されたアメリカとイギリスの合作で有人火星探査計画を巡る陰謀を描いたサスペンスドラマです ストーリー:人類初の有人火星探査を目的とした宇宙船「カプリコン1号」が打ち上げられる直前クルーは突然船外に連れ出され砂漠の秘密基地に監禁される…NASAは生命維持システムに致命的欠陥があることを隠し無人で火星に向かわせる計画を立てていたのだ!クルーは偽の火星着陸映像を撮影するよう強制されるが真実を知った新聞記者と共に逃亡を図り… 劇中にはアポロ宇宙船の記録映像が使用されていますが 撮影に際してNASAは協力を拒否しました
「ムーン・ウォーカーズ」 2015年公開のブラックコメディ映画 アポロ11号の月面着陸映像がスタンリー・キューブリックによって捏造されたという都市伝説をテーマにしています ストーリー:1969年NASAの月面着陸計画が難航する中 アメリカ政府はスタンリー・キューブリックに月面着陸映像の捏造を依頼することを決定する…それを受け CIA諜報員のキッドマンはロンドンに派遣されキューブリックと接触しようするが借金まみれの男ジョニーに制作費をだまし取られ…
👉バズ・オルドリンのパンチ事件 2002年アポロ11号の宇宙飛行士バズ・オルドリンが月面着陸の陰謀論者にパンチを見舞った事件がありました
👉「月の石はチーズ」説 陰謀論者は月から持ち帰った石が地球のものであると主張していますが これを皮肉って「月の石はチーズでできている」というジョークが広まりました
※その他書籍 アポロは月に行かなかった 草川隆 人類の月面着陸は無かったろう論 副島隆彦
※月面着陸を巡る陰謀論はネタが尽きませんが この映画が炙り出しているのはアメリカ的な過剰な広告とそれに盲目的に追従してしまう大衆心理であったり消費文化であり それこそが世界経済や政治の原動力になってしまっているという今を生きる私たちにも通じる共通課題です…この映画が時代背景とは言え現在ではNetflix等のストリーミング・サービスでは観ることができなくなった「ベトナム戦争」を逃げずに意味深くしっかり登場させているところをMMTはもっとも評価しています…この映画がオスカー争いにどう食い込むか今から楽しみですね😊